神戸地方裁判所 平成9年(ワ)2300号 判決 1998年12月10日
原告
平成運輸有限会社
ほか一名
被告
株式会社依里運輸
ほか一名
主文
一 被告らは、原告平成運輸有限会社に対し、連帯して金一五七万一九二五円及びこれに対する平成九年三月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告兵庫県交通共済協同組合に対し、連帯して金三一六万二七一八円及びこれに対する平成九年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを八分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告平成運輸有限会社に対し、連帯して金一八六万八九一二円及びこれに対する平成九年三月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告兵庫県交通共済協同組合に対し、連帯して金三七二万四八三七円及びこれに対する平成九年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により物損を被った原告平成運輸有限会社(以下「原告会社」という。)が、被告株式会社依里運輸(以下「被告会社」という。)に対しては民法七一五条に基づき、被告青木三仁(以下「被告青木」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、損害賠償の内金の支払を求める事案(請求一)、及び、同原告と交通共済契約を締結していた原告兵庫県交通共済協同組合(以下「原告協同組合」という。)が、右交通共済契約に基づいて本件事故の被害者に共済金を支払ったことにより、原告会社の被告らに対する求償権を取得したとして(商法六六二条)、被告らに対して右共済金の内金の求償を求める事案(請求二)である。
なお、付帯請求は、原告会社については本件事故の発生した日から支払済みまで、原告協同組合については共済金支払の日の翌日から支払済みまで、それぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。
また、被告らの債務は不真正連帯債務である。
二 争いのない事実等(証拠の記載のない事実は当事者間に争いがない。)
1 交通事故の発生
(一) 発生日時
平成九年三月五日午前五時四五分ころ
(二) 発生場所
福岡県糟屋郡宇美町大字宇美 九州縦貫自動車道下り七四・六キロポスト付近
(三) 争いのない範囲の事故態様
右発生場所で、停止又は減速(この点については当事者間に争いがある。)した被告青木運転の普通貨物自動車(いわゆるトレーラーであり、牽引車両は岡山一一こ三八六(乙第三号証)、被牽引車両は岡山一一け六一七四。以下、一括して「被告車両」という。)の後方を走行していた訴外鹿島佳人運転の普通貨物自動車(福岡八八あ四三八〇。以下「鹿島車両」という。)が、続いて停止又は減速(この点についても当事者間に争いがある。)したところ、さらにその後方を走行していた訴外金光英浩(以下「訴外金光」という。)運転の大型貨物自動車(姫路一一あ四一二〇。以下「原告車両」という。)が鹿島車両に追突し、その衝撃で、鹿島車両が被告車両に追突した。
2 業務の従事関係、車両の所有関係等
(一) 原告車両は原告会社の所有するものであり、本件事故当時、訴外金光は、原告会社の業務に従事中であった(甲第二ないし第七号証、乙第一号証、証人金光英浩の証言、弁論の全趣旨により認められる。)。
(二) 鹿島車両は訴外新長門運送株式会社の所有するものであり、同社の業務に使用されているものであった(甲第七号証、第八号証の一、二、第九号証、第一三号証、証人鹿島佳人の証言、弁論の全趣旨により認められる。)。
(三) 被告青木は、本件事故当時、被告会社の業務に従事中であった。
3 交通共済契約の締結
原告会社と原告協同組合とは、平成八年三月二七日、原告車両を目的として交通共済契約を締結した(甲第一一号証の一、二により認められる。)。
4 共済金の支払
原告協同組合は、訴外新長門運送株式会社に対し、平成九年八月一一日、右交通共済契約に基づき、共済金五二九万一一九六円を支払った(甲第一二号証により認められる。)。
三 争点
本件の主要な争点は次のとおりである。
1 本件事故の態様、及び、これを前提とした被告青木の過失の有無、過失相殺の要否、程度
2 原告会社に生じた損害額
3 原告協同組合が被告らに対して請求しうる金額
四 争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張
1 原告ら
本件事故の前、本件事故の発生場所の手前にある福岡インターチェンジ付近から、被告青木は、鹿島車両を追い立てるような方法で被告車両を運転していた。
そして、本件事故の発生場所の直前で、走行車線を走行していた被告車両が、追越車線を走行していた鹿島車両を追い越し、その直後、被告車両は追越車線に車線を変更して、停止した。
そこで、続いて、鹿島車両はその後方に停止したところ、さらにその後方を走行していた訴外金光運転の原告車両が鹿島車両に追突し、その衝撃で鹿島車両が被告車両に追突したものである。
したがって、本件事故は、高速道路上において自車を停止させた被告青木の過失により生じたものである。
また、訴外金光には、過失相殺の対象となるべき過失は存在しない。
2 被告ら
本件事故の発生場所は、九州縦貫自動車道下り線の須恵パーキングエリアからの合流地点からわずかに進行した地点である。
本件事故の直前、被告青木は、時速約一〇〇キロメートルで被告車両を運転し、右合流地点の手前で、走行車線から追越車線に車線を変更した。この際、右パーキングエリアから本線車線に進行してきたトラックが二台、相次いで、加速車線から走行車線を経て追越車線の被告車両の直前に割り込んでくる形となった。
そこで、被告青木は、自車に急制動の措置を講じ、自車を時速約一〇キロメートルにまで減速して、かろうじて右割込車両との衝突を回避した。
その直後、被告車両の後方で、原告車両が鹿島車両に追突し、その衝撃で、鹿島車両が被告車両に追突してきたものである。なお、原告車両が鹿島車両に追突したのは、訴外金光が、十分な車間距離を保持せず、かつ、高速度で原告車両を運転していたために、被告車両に続いて減速した鹿島車両の動静に対処することができなかったためである。
したがって、被告青木は、右割込車両との衝突を回避するためにやむをえず自車に急制動の措置を講じたものであって、右措置には違法性はない。
他方、訴外金光には、車間距離保持義務違反、速度違反の過失があり、本件事故は、訴外金光の一方的な過失により生じたものであるというべきである。
また、仮に、被告青木に何らかの過失があるとしても、右に述べたように訴外金光にも過失があるから、被告らは、予備的に過失相殺の抗弁を主張する。
五 口頭弁論の終結の日
本件の口頭弁論の終結の日は平成一〇年一〇月一五日である。
第三争点に対する判断
一 争点1(本件事故の態様等)
1 甲第二号証、乙第一号証、証人鹿島佳人及び証人金光英浩の各証言、調査嘱託の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。
(一) 前記のとおり、本件事故の発生場所は、九州縦貫自動車道下り七四・六キロポスト付近である。
右発生場所は、福岡インターチェンジから約六・三キロメートル進行した地点であり、また、須恵パーキングエリアから約一・〇キロメートル進行した地点である。
また、右発生場所付近の道路は、走行車線と追越車線の二車線である。
(二) 訴外鹿島は、本件事故の直前、鹿島車両を運転して、福岡インターチェンジから九州縦貫自動車道下り線に入った。
当初、鹿島車両は、時速約八〇キロメートルで走行車線を走行していたところ、後方から被告車両が急接近してきた。
そこで、被告鹿島は、追越車線、走行車線と、順次、自車の進行する車線を変更したが、その都度、後方の被告車両も鹿島車両の後方につく形で車線を変更した。そして、その後、被告鹿島が、自車の進行する車線を追越車線に変更し、時速約一〇〇キロメートルで走行していたところ、被告車両は、走行車線を走行して鹿島車両を追越し、その直後に追越車線に車線を変更して、急に減速して停止した。
また、訴外鹿島は、その後方二ないし三メートルの地点に鹿島車両を停止させ、サイドブレーキをかけた上、ギアをニュートラルに戻した。
(三) 鹿島車両の後方には、大型貨物自動車(一〇トン車で、箱型の荷台の両翼が開くいわゆるウイング車)が走行していた。
右大型貨物自動車は、鹿島車両が走行車線で減速・停止したのを認め、走行車線に車線を変更し、停止していた鹿島車両及び被告車両を、追越して前方に走行していった。
(四) 右大型貨物自動車の後方には、訴外金光の運転する原告車両が、時速約一〇〇キロメートルで走行していた。
また、原告車両と右大型貨物自動車との車間距離は五〇ないし六〇メートルしかなく、右大型貨物自動車の車高が相当高かったため、訴外金光は、右大型貨物自動車の前方を視認することができなかった。
そして、右大型貨物自動車が走行車線に車線を変更した直後、訴外金光の前方の視野が開け、訴外金光は、前方に鹿島車両が停止しているのを認め、直ちに自車に急制動の措置を講じたが及ばず、原告車両が鹿島車両に追突した。なお、鹿島車両が停止してから約五秒後に、原告車両が鹿島車両に追突した。
また、右衝撃で、鹿島車両は前方に押し出され、被告車両に追突した。
2(一) 右認定事実に反し、被告青木三仁の本人尋問の結果の中には、須恵パーキングエリアから本線車線に進行してきたトラックが二台、相次いで、加速車線から走行車線を経て追越車線の被告車両の直前に割り込んでくる形となったため、これとの衝突を避けるため、やむをえず自車に急制動の措置を講じた旨の被告らの主張に沿う部分がある。
しかし、証人鹿島佳人の証言が具体的であること、右証人は、とりたてて本件と利害関係を有するわけではないことと対比して、被告青木三仁の本人尋問の結果は信用性に乏しい。
特に、右本人尋問の結果の中には、福岡インターチェンジを過ぎた直後に、鹿島車両が追越車線を遅い速度で走行していたので、走行車線を通って被告車両がこれを追い越していったとする部分がある。しかし、右認定の福岡インターチェンジと本件事故の発生場所との距離関係に照らすと、このような車両の走行状況の下では、本件事故の発生時に、被告車両のすぐ後ろに鹿島車両が走行していたことを合理的に説明することは困難である。被告らは、高速道路上で車両が停止することはありえない旨指摘するが、右認定事実によると、被告青木が二回にわたって自車の進行車線を変更し、相対的に低速度で先行する鹿島車両を追い越そうとしたのに対し、結果として、その都度、鹿島車両が被告車両の進行を妨害する形で進行車線を変更したというのであるから、被告青木がこれに対して憤激したことを優に首肯することができる。
(二) 道路交通法上、車両等の運転者は、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その車両を急に停止させ、又はその速度を急激に減ずることとなるような急ブレーキをかけてはならない(同法二四条)。そして、本件事故の直前、被告青木が被告車両に急ブレーキをかけたことは当事者間に争いがないから、「危険を防止するためやむを得ない場合」であったことを基礎づける事実は、過失の評価障害事実として、被告らが立証責任を負うべき抗弁であるというべきである。
ところが、被告車両の直前に割込もうとしていた車両の存在については、被告青木三仁の本人尋問の結果のほかに、これを裏付ける証拠はまったく存在せず、結局、訴訟法上、いまだ立証することができていないと評価せざるをえない。
この点においても、本件事故の態様に関する被告らの主張を採用することができない。
3 1で認定した事実及び2で判示した検討によると、被告青木には、自車に急制動の措置を講じ(道路交通法二四条)、高速道路上で自車を停止させた過失(同法七五条の八第一項)があることは明らかである。
他方、原告車両の前方を走行していた大型貨物自動車が、鹿島車両を回避する行動をとりえたことに照らすと、訴外金光にも、安全速度保持義務違反、車間距離保持義務違反、前方不注視の過失があったことは明らかである。
そして、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故に対する過失の割合を、被告青木が六〇パーセント、訴外金光が四〇パーセントとするのが相当である。
なお、本件事故に関し、訴外鹿島の過失を認めることはできない。
二 争点2(原告会社に生じた損害額)
1 損害
(一) 修理費用等
甲第四号証によると、本件事故により、原告車両の修理費、レッカー代として、金一八八万〇一五五円の損害が発生したことが認められる(請求額も同額)。
(二) 休車損害
甲第四ないし第六号証、弁論の全趣旨によると、本件事故の前の平成八年一二月から平成九年二月まで(九〇日間)の原告車両にかかる運賃収入が合計金五六一万円であり、経費が合計金三八四万六七五六円であったこと、本件事故のため、原告車両は修理に二五日間を要したこと、右修理期間中、原告会社は、原告車両の運賃収入から経費を除いた金額を、得ることができなかったことが認められる。
したがって、右金額は、原告会社の休車損害として、本件事故と相当因果関係のある損害であるというべきであり、右損害額は、次の計算式により、金四八万九七九〇円となる。
計算式(5,610,000-3,846,756)÷90×25=489,790
ただし、原告会社の請求額は金四八万九七二〇円であるので、右請求額の限りで損害と認めることとする。
(三) 小計
(一)及び(二)の合計は金二三六万九八七五円である。
2 過失相殺
争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する訴外金光の過失の割合を四〇パーセントとするのが相当である。
また、争いのない事実等2記載のとおり、本件事故当時、訴外金光は、原告会社の業務に従事中であった。
したがって、訴外金光の右過失を被害者側の過失と評価し、過失相殺として、原告会社の損害から右過失割合を控除すると、控除後の金額は、次の計算式により、金一四二万一九二五円となる。
計算式 2,369,875×(1-0.4)=1,421,925
3 弁護士費用
原告会社が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告らが負担すべき弁護士費用を金一五万円とするのが相当である(請求額は金三〇万円。)。
三 争点3(原告協同組合の請求額)
1 訴外新長門運送株式会社の損害
(一) 修理費用等
甲第七号証によると、本件事故により、鹿島車両の修理費、レッカー代として、金四一七万五〇〇〇円を要したことが認められる(請求額も同額)
(二) 積荷損害
甲第八号証の一、二によると、本件事故の際、鹿島車両には訴外株式会社マルキョウから委託された商品が積載されていたこと、本件事故のため、右商品が破損したこと、右破損した商品の金額は金二八万〇四八六円であること、訴外新長門運送株式会社は訴外株式会社マルキョウに対して、右金額を損害弁償したことが認められる。
したがって、右金額は、本件事故と相当因果関係のある訴外新長門運送株式会社の損害であるというべきである(請求額も同額)。
(三) 休車損害
甲第七号証、第九号証、弁論の全趣旨によると、本件事故の前の平成八年一二月から平成九年二月まで(九〇日間)の鹿島車両にかかる運賃収入が合計金三〇四万六三〇五円であり、経費が合計金一三一万四八八二円であったこと、本件事故のため、鹿島車両は修理に少なくとも四五日間を要したこと、右修理期間中、訴外新長門運送株式会社は、鹿島車両の運賃収入から経費を除いた金額を、得ることができなかったことが認められる。
したがって、右金額は、訴外新長門運送株式会社の休車損害として、本件事故と相当因果関係のある損害であるというべきであり、右損害額は、次の計算式により、金八六万五七一一円となる(円未満切捨て。)。
計算式 (3,046,305-1,314,882)÷90×45=865,711
ただし、原告協同組合の請求額は金八六万五七一〇円であるので、右請求額の限りで損害と認めることとする。
(四) 小計
(一)ないし(三)の合計は金五三二万一一九六円である。
2 原告会社と被告らとの負担額
争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に関し、訴外鹿島の過失を認めることはできないから、1で認定した訴外新長門運送株式会社に発生した損害は、訴外金光と被告青木とが、共同不法行為者として、連帯して責任を負うべきであり、さらに、争いのない事実等2記載のとおり、原告会社と被告会社とは、それぞれの使用者として、使用者責任を負うべきである。
また、共同不法行為の加害者の各使用者が使用者責任を負う場合において、一方の加害者の使用者は、当該加害者の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超える損害を賠償したときは、その超える部分につき、他方の加害者の使用者に対し、当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度で、求償することができる(最高裁昭和六三年(オ)第一三八三号、平成三年(オ)第一三七七号同年一〇月二五日第二小法廷判決・民集四五巻七号一一七三頁)。
そして、争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する過失の割合は、訴外金光が四〇パーセント、被告青木が六〇パーセントとするのが相当であるから、原告会社の負担部分は、次の計算式により、金二一二万八四七八円となる。
計算式 5,321,196×0.4=2,128,478
3 原告協同組合の求償額
争いのない事実等3及び4記載のとおり、原告協同組合は、原告会社との交通共済契約に基づき、訴外新鳴門運送株式会社に対し、平成九年八月一一日、共済金五二九万一一九六円を支払った。
したがって、右金額のうち、2で判示した原告会社の負担部分金二一二万八四七八円を超える部分金三一六万二七一八円については、商法六六二条により、原告会社の被告会社に対する求償権が、原告協同組合に移転したというべきである。
第四結論
よって、原告会社の請求は主文第一項記載の限度で、原告協同組合の請求は主文第二項記載の限度で、それぞれ理由があるからこれらの範囲で認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 永吉孝夫)